IKEPODデザインはそのままにリーズナブル・プライスで蘇った伝説のブランド『アイクポッド』の復活劇! 01
近未来デザインと大型ケースで
時計界に衝撃を与えた伝説のブランド
時計業界に身を置きつつ、かつての『アイクポッド』のファンでもあったというクリスチャン-ルイ・コル氏。彼こそが今回の『アイクポッド』復活の仕掛け人である。
「私が『アイクポッド』のブランドを手に入れたのは2017年の1月1日のこと。『アイクポッド』は2013年から事実上の休眠状態にあり、ブランドは売りに出されていたのです。
というのも以前のオーナーは2008年にブランドを買収し、2012年まで経営していましたが、“簡単に売れるだろう”と思ったところ販売がふるわなかったためブランドを売りに出したのです」
こう語るコル氏はリシュモン グループで時計界でのキャリアをスタートさせた。最初はボーム&メルシエ、その後、ピアジェを経て退社し靴業界に転身。さらにスイスの高級宝飾会社を経て独立し、ジュウ渓谷を拠点に新規時計ブランドのコンサルティングなどを行っていた頃、以前からファンだった『アイクポッド』が売りに出ていると知り、手に入れることを決断したという。だが、低迷する『アイクポッド』を、なぜ手に入れたのか?
「その理由は時計作りのレジェンドだからです。マーク・ニューソンとオリバー・アイクがこのブランドを1994年にスタートさせたとき、今までに無かったものを時計界に持ち込んだ、と誰もが直感しました。彼らはケース径46~47mmのモデルを発表しましたが、このような大きな時計は当時、パネライしかありませんでした。つまり『アイクポッド』はパネライと共に大型腕時計の潮流を作り、大きな衝撃を時計界に与えたのです。
当時、私はリシュモン グループに在籍していましたが、ラグもない巨大なケースに驚きました。まるでUFO(未確認飛行物体)のようでしたからね」
生産体制の大幅な見直しにより
誰もが手にできる価格を実現
『アイクポッド』に衝撃を受けファンになったコル氏だったが、簡単に手に入れることはできなかったという。
「当時、『アイクポッド』はパリの時計店で7,000ユーロ(当時の為替レートで約80万円ほどか?)しました。それは私が欲しかったロレックスの倍でした。しかもムーブメントは汎用で、その価格は高すぎると感じました。しかしアイクポッドは大成功し、トレンドに敏感なデザイナーや成功した建築家たちが『アイクポッド』を身に着ける風潮が生まれたのです。
ところがその後、『アイクポッド』は経営不振となり、アメリカの投資家が買収しましたが、創業当初よりさらに高額になってしまいました。
その頃に私はETA/ヴァルジューのCal.7753にデュボア・デプラのモジュールを搭載したクロノグラフを手に入れましたが、約1万2,000ユーロ(約170万円)もしました。正直、これは法外です。汎用ムーブメントで、こんなに高い必要はないんです」
“確かにスタイリッシュだが、高額すぎるのが問題だった”とコル氏は分析する。
「たとえ良い時計でも、あまり高額すぎるとファンも他のブランドに逃げてしまいます。私も26歳の時、7,000ユーロでは到底、買えませんでした。そこで自分がオーナーになったら誰もが買えるリーズナブルな価格にしたいと考え、新しいモデルは20分の1にしたのです」
近未来的な基本デザインは継承しつつ
文字盤などは一流デザイナーが担当
この価格を実現するため生産拠点の再考も含め、徹底的なコスト削減が図られている。
「以前はスイス製でしたが、現在は文字盤と針は台湾製、ケースとストラップは中国製、ムーブメントは日本製です。モデルは2種類あり、ケース径42mmの二針モデルが77,000円(税抜)、ケース径44mmのクロノグラフが92,000円(税抜)です。
つまりフェアプライスでありグッドプライス。是非、手に取ってみてください。クォリティを重視し、2,000ユーロ(約25万円)以上の価値を感じられるはずです」
ところで新しい『アイクポッド』は一見、旧モデルと見分けが付かないが、どこがどう変わったのか?
「『アイクポッド』の象徴は、この丸いデザインであり、2メートル離れても一目でアイクポッドとわかること。新作はケースの基本デザインは従来通りですが、文字盤と針はエマニエル・ギョエ氏に依頼。彼はかつてオーデマ ピゲでロイヤルオークのデザインを担当していたデザイナーです。
また、長年の友人で今はジュネーブでデザイン学校の教師であるアレクサンドロ・ペラルディも文字盤を担当しています。最初、彼に“新しい時計のデザインを頼みたい”と伝えると、“もう時計はいいよ”と断られたのですが、“新しい『アイクポッド』のためだけど…”と言うと、ふたつ返事で引き受けてくれました」
“伝説復活に弾みを付けたキックスターターで
ブランドが生きていることを再認識しました”
このような綿密な計画のもと、伝説のブランドである『アイクポッド』の復活を目指したコル氏だったが、もうひとつ彼に大きな力を与えたのがキックスターター、つまりウェブで出資者を募って資金を集めるクラウドファンディングである。
2018年、コル氏はキックスターターで出資を募集。呼びかけに応じ、わずか88分で700人からオーダーが入り、あっという間に40万スイスフランを集めることに成功した。
「ええ、自己資金に加え、キックスターターで事業をスタートさせました。そもそもアイクポッドを再び市場に送り出すにはキックスターターがなければ不可能でした。この資金をベースに生産を開始し、2019年7月から、すでに1000本程を販売しています。
このプロジェクトを通して買っていただいた方は40代が中心で、初めてキックスターターを利用した方が大半でした。つまり億万長者がお金に任せて買うのではなく、時計に対する情熱を持って買っていただいたのです。
もちろん、ブランドの買収は自己資金です。40歳から50歳までに十分に稼ぎましたからね。そこで得た資金のすべてを『アイクポッド』に注ぎ込みましたが、実際に生産を開始するにはキックスターターで得た資金が絶対に必要だったのです。
さらにキックスターターを利用したことで多くの人々がブランドの再生に期待を持っており、“ブランドが生きている”ことが確認できたことが最大の収穫でした」
“日本市場での成功が
『アイクポッド』本格再生の鍵です”
さらに今後、コル氏にはこの再生を本物とするプランがあるという。
「改めて自動巻きモデルをリリースすることを考えています。その場合、クォーツと自動巻きでケース径を変え、はっきりと違うものとわかるようにするつもりです」
確かにコル氏の言うようにデザインで評価されたアイクポッドなのだから、必ずしも機械式ムーブメントにこだわる必要はなく、スタイルさえ楽しめるならクォーツで充分である。
「とにかく製品で勝負です。現在の時計市場には強いDNAで勝負するブランドはほとんどありませんし、新生『アイクポッド』が目指しているのは新しいセグメントなのです。
また、何より私は日本での成功を願っています。キックスターターで投資してくれた方には日本の方もたくさんいますし、日本で成功できたら世界中どこでも成功できると私は信じています。実際、多くのブランドにとって日本は絶好のテストマーケットになっていますからね」
アイコニックなデザインはそのままに、大幅に買いやすいリーズナブルな価格で市場に再び現れた『アイクポッド』。その新たな伝説の創成は、今、始まったばかりである。
取材・文:名畑政治 / Text&Report:Masaharu Nabata
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto
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