ORIS“インクルーシブ・ラグジュアリー”という位置で時計ファンとの絆を深めるオリス 01
「結果的に、パンデミックはオリスにとって良い結果となりました」
2006年にオリス入社、2019年よりオリス グループの共同経営責任者を務めるロルフ・スチューダー氏。スイスとフランスで法律を研究した弁護士の資格を持つ彼への最初のインタビューは、2019年6月21日の午後、場所は東京・銀座のオリスジャパンのオフィスだった。就任早々にスチューダー氏が直面したのが、全世界を混乱に落としめた新型コロナ禍である。完全に5年ぶりとなった今回(2024年6月20日)のインタビューで、まず尋ねたのはこの5年間のオリスの経緯だ。この5年間、オリスはどのように未曾有の大禍を過ごしたのだろう?
「パンデミックの期間ですね。時計業界でも様々な物事が変わりました。私もパンデミックが始まった頃は『これは大変なことになるぞ』と思っていましたが、蓋を開けてみると時計業界にとっては良かったのです。オリスにとっても良い結果をもたらしました」(ロルフ・スチューダー氏。以下すべて同)
そこなのだ。このインタビューの半年前、2023年12月6日に私と名畑編集長はスイス時計協会FHの会長(president)、ジャン・ダニエル・パッシュ(Jean-Daniel Pasche)氏(当時)のお話を伺っていた。退任前の日本等への挨拶行という感じだったが、その時にも新型コロナ禍のパンデミック期を聞くと、パッシュ氏は「スイス時計業界にとっては良い結果でした」と答えている。その理由をスチューダー氏に尋ねてみた。
「いくつか理由はあるでしょう。まず人々が家に籠(こも)り、旅行にもレストランにも行かず外出を控えました(過去の出来事を忘れやすい日本人だが、さすがに欧米のロックダウンや日本の“お籠り”状況はまだ記憶に残っているだろう。平日、午後の東京・銀座4丁目で私の視界に入る通行人はほんの3~4人だけだった)。そうするとお金も使いません。十分な時間があるので人々が雑誌を読んだりネットを見たりする中で、時計、特に機械式時計に対する興味と知識が深まったことが、時計業界に良い結果をもたらしたと思います。(知識を深めたおかげで)高い時計を買うようになったのです」
これはパッシュ氏の回答と一致する。ちなみに、スイス時計協会FHが2024年1月30日に発表した「2023年のスイス時計輸出状況」によると「2023年には前年を110万本上回る腕時計が海外に輸出されたことになり、前年度にすでに見られた回復基調が確認されました。腕時計の輸出額は7.7%増の255億スイスフランとなりました」とある。255億スイスフランとは日本円にして約4兆4625円(1スイスフラン≒175円で計算。2024年12月22日現在)だ。つまりパンデミックは時計業界にとっては格好の「教育期間」となったわけだ。オリスにはこの期間でどのような変化があったのだろうか。
「オリスを含めた中小ブランドにとって良かったのは、やはり消費者のみなさんに『時間があった』ということでしょう。時間があることで、より一層時計に関する知識を得る時間の余裕が生まれ、それまで余り知られていなかったブランドの認知度が上がったのです。そもそもビッグ・ブランドは誰でも知っていたでしょうから、それ以外の時計会社の認知度が上がったことですね。
それから、大ブランド(エクスクルーシブ・ブランド)は“お高く留まって”いて、何かしら排他的な雰囲気がありますよね。(パンデミックという過程では)消費者とのコミュニケーションが上手く取れなかったブランドもあるのではないでしょうか。
エクスクルーシブ・ブランドは人をシャットアウトする感じがありますが、オリスは誰でも受け入れるという姿勢を持ち続けています。そこでオリスはその物語や企業姿勢を消費者に十分に伝えるために、オリスベアというマスコットを使って、消費者により近い存在であるというコミュニケーション方法を採りました。パンデミックの時期にも色々なトピックを用意して、それが良い結果をもたらしたと思います」
スチューダー氏の言う“オリスベア”とは、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブや銀座ブティック等で、お客さんをもてなすためにちょこっと立っているクマさんのキャラクターだ。私は2018年のバーゼルワールドのブース前で、お行儀よく立っているオリスベアを見たことがある(写真も撮った)。実はこのオリスベアこそパンデミックを生き抜いたオリスの陰の主役、ブランドの姿勢を体現するキャラクターだとスチューダー氏は言われるが、このクマさんについての話は後述する。
パンデミック中のオリス主要モデルの軌跡
パンデミックが始まった2020年以降の、主だったオリスの新作を思い出しながら列記する。
●2020年……当年発表のオリス7番目の自社ムーブメントとなるCal.400搭載の「アクイスデイト キャリバー400」が登場。パンデミック初年に7番目の自社キャリバーを発表したことが大変印象に残っている(オリスの自社ムーブメントの変遷については後述)。
●2021年……Cal.400搭載の「アクイスプロデイト キャリバー400」や、ユネスコ世界遺産登録の世界最大の干潟、ワッデン海の環境保護を支援する「ダットワット リミテッドエディション」、Cal.403搭載の「ビッグクラウン ポインターデイト キャリバー403」等力強いラインナップを発表。注目すべきは、オリスの環境保護支援活動の試みである「アクイス デイト アップサイクル」であろう。海洋投棄プラスティック廃棄物問題の社会貢献として、再生PETプラスティックのアップサイクル素材をダイアルに搭載したモデル。すでに2019年、再生PETアップサイクル素材を裏蓋に採用したモデル「オリス クリーンオーシャン リミテッドエディション」が発表されているので、アップサイクルモデルとしてこれは第2弾になる。オリスの環境保護支援モデルは2010年の「グレートバリアリーフ」に始まり、2024年まで18のタイムピースを数える。これを見てもオリスの環境保護支援モデルは、いわゆる“流行りに乗った”ものとは一線を画す存在であることが分かる。
●2022年……Cal.400搭載の「ダイバーズ65 キャリバー400」や、ブロンズケース等限定版も含めて10モデル近くも用意した「ビッグクラウン ポインターデイト」が堂々たる存在感を示した。中でも「これはオリス流ラグスポか?」と感じた「プロパイロットⅩ キャリバー400」は、スチューダー氏が唱えるインクルーシブモデルの発露と思われる。
●2023年……トップニュースは、自社ムーブメント開発10周年を記念して発表された10機目のムーブメント、Cal.473搭載の「ビッグクラウン キャリバー473」。他は端正な中3針モデル「アートリエ S」、環境保護団体ブレスネットとのコラボレーションモデルで、パステルなブルー、グリーン、ピンクの色彩ダイアルを纏(まと)った「ダイバーズ 65」が登場。その一方で、完全ストロング・スタイルの「プロパイロット アルティメーター」も用意された。
そして本年(2024年)の本命は10月発表の「ダイバーズ デイト」である。当モデルは、同年6月発表の「ダイバーズ65 デイト」に搭載された自動巻きのCal.733の改良型733-1を搭載し、ケース径は「65 デイト」の40mmから1mmサイズダウンの39mm、防水性能は10気圧(100m)の2倍となる20気圧(200m)、パワーリザーブも38時間から41時間へとアップされた2024年イチ推しのグレードアップモデルだ。一方で8月発表の「アクイス デイト クロノグラフ」は、4月のウォッチズ&ワンダーズ2024で高い評判を呼んだアクイスデイト コレクションのクロノグラフ・バージョンである。
やはり一連のダイバーズとアクイス・コレクション、そして何よりも自社ムーブメントのCal.400の存在が大きかったと思われる。その点についてスチューダー氏の意見を伺った。
>>「この5年間の成功要因? やはりキャリバー400です!」
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
写真:高橋敬大 / Photos:Keita Takahashi
協力:オリスジャパン / Thanks to:ORIS JAPAN
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