ORIS“インクルーシブ・ラグジュアリー”という位置で時計ファンとの絆を深めるオリス 03
オリスの立場を明確にする
インクルーシブ・ラグジュアリーという考え方。
この5年間にあらためて(あるいは初めて)オリスの存在を知り、その魅力を理解した時計ファンが世界中に増えている。オリスの魅力とは“インクルーシブ(inclusive)・ラグジュアリー”である、とスチューダー氏は述べる。“インクルーシブ”とは“エクスクルーシブ”の反対語で、“すべてを包み込む”、“包括的”という意味だ(“エクスクルーシブ”は“排他的”、“排除的”の意)。また、“インクルーシブ・ラグジュアリー”は最近流行の“クワイエット・ラグジュアリー”とは、また微妙に意味が異なると彼は述べる。何を瑣末な事にこだわっているのだろう、とみなさんは思われるに違いないが、時計界におけるオリスの立ち位置を明確に表す言葉であるので、2019年に続き改めてこの点を尋ねてみた。
「それらは違いますよ。クワイエット・ラグジュアリーとは『ラグジュアリーなんだけど派手ではなく、ちょっと抑えた贅沢』のことだと思います。方やインクルーシブ・ラグジュアリーとは、どちらかと言えば『見た目ではなく考え方(state of mind)』です。また、インクルーシブの反対語のエクスクルーシブには『人とは少し距離を置く』、『他者を締め出す』、『自分だけ特別』という意味がありますが、インクルーシブ・ラグジュアリーは『持っているモノに対する思い入れ、それを他の人と分かち合うこと』という意味があると思います。エクスクルーシブ・ラグジュアリーとは『人を羨ましがらせる(それによって自分が優越感に浸れる)』、インクルーシブ・ラグジュアリーとは『みんなで楽しみを分かち合う』ことです。
高級時計を持って周囲に『あなた達は私のレベルまで来られますか?』という上から目線の優越感に浸るか、これを見せることでみんなが『これはいいね!』と楽しみを分かち合うか、という違いですよ」
「幸せをみんなで分かち合う、というオリスの考えを体現したのが、オリスベア」
私の経験上、昔から本当に趣味の良い人やお金持ちは控えめで地味で、何事にもひけらかしをしない。これは確かである。
「それこそが人生の意味(meaning of life)だと思いますよ。他の人と喜びを分かち合うことで、自分も幸せになるということです。実はオリスベアにはその意味が込められています」
単なるコミュニケーション・ツール以上の存在がオリスベアだ。私は2018年にバーゼルワールド(当時)のブース前に控えめに立っているオリスベアを見たことがある。そんな以前から存在するキャラクターで、銀座ブティックにも110cmぐらいのオリスベアがお客さんを迎えてくれる。また取材時には高さ50cm(目測)くらいのミニ・オリスベアもテーブルに控えていた。日本の半纏(はんてん)姿で襟には「OSC TOKYO」を書かれている。彼のことを後で聞いたところ、これは世界各地に存在するソーシャルクラブ向けマスコット・オリスの東京バージョンとのこと。その土地のシンボル的なデザインを採用しており、東京マスコットでは背中に浅草・浅草寺の提灯をあしらった火消し半纏と地下足袋の出立ち。“お江戸の花は……”てなやつだ。両襟の「OSC TOKYO」とは「Oris Social Club TOKYO」の意味で、現在は同クラブ・東京ブランチのプレジデントであり、東京・代官山の「レストラン・パッション」総支配人のパトリック・パッション氏の元へ戻り、当レストランでお客さんを迎えているそうである。
「最初は工場に4体の小さなオリスベアがありました。ずっと居ましたね。2000年代に入り『アートリエ』を開発している際に、これを担当していたデザイナー(おそらくルーカス・ブールマン氏)がオリスベアに注目したようです。オリスベアはいつも工場で楽しそうに佇んでいますからね。それでこれこそが我々のスピリッツ! オリスベアをマスコットに使おう! ということになったのです」
ということは、2018年のバーゼルで私が見たオリスベアは、当社に正式採用されていたのではなく試用期間だったのだろう。
「高級品の業界というのはエモーショナルな側面があります。本来は商品自体が重要なのですが、多くのブランドは俳優等のセレブリティを採用したプロモーション活動を行います。しかし我々としては、高いギャランティを受け取ったがためにそのブランドのPRするという行為は、何かしらオリスにそぐわないなと思ったのです。お金を払えば褒めるでしょうし(脚本どおりの望まれたロールプレイをする、という意味)、それはちょっと違うなと。エモーションを届けるのは、そのようなこと(高いギャランティを支払ってロールプレイをするセレブリティ)よりテディベアがオリスにはふさわしいのです。欧州ではテディベア(のぬいぐるみ)は、大抵の人が子供の時に持っていたものです。テディベアとかオリスベアを見て怒る人はいません」
エクスクルーシブ・ブランドにはエクスクルーシブな才能を持ったアスリート、アーティスト、アクター等というアンバサダーが必要なことは理解できる。しかし、どのブランドも右へならえでは、みな同じように見えてきて差異に気付きにくい。その中にオリスベアはひと際個性を放つ存在だ。
「なぜならオリスベアは純粋だからです」
そこに居るだけで心地よい安心感を与える存在、インクルーシブ・ブランドを体現するキャラクターがオリスベアである。そのようなオリスにご興味のある方は、ぜひ時計と併せて銀座のクマさんに会いに行ってみてはいかがだろう。
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
写真:高橋敬大 / Photos:Keita Takahashi
協力:オリスジャパン / Thanks to:ORIS JAPAN
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