ORIS“インクルーシブ・ラグジュアリー”という位置で時計ファンとの絆を深めるオリス 02
「この5年間の成功要因? やはりキャリバー400です!」
パンデミックによる世界的な引きこもり現象で、人々はあらためて“自分の時間”を得ることができた。その時間を十分に使うことで、以前は余り知識のなかった時計の世界をさらに深く知ることになり、オリスという勤勉実直な歴史ある中堅クラスの時計会社がクローズアップされた。同時にSNSの発達によって、この10年~15年間で“時計のパーソナル化”が着実に進んだこともあり(他人と同じ時計を持つのは嫌、という風潮。これは成熟化の表れだろうか?)、独立時計師(工房)や新興時計会社(工房)への注目度が格段に高くなっている現象や、時計愛好家コミュニティ(クラブ)の世界的な広がりもパンデミック期に関係があると思われる(オリスにもグローバルコミュニティが存在する)。パンデミックの自粛期間にSNSが加わった、新型コロナの思わぬ怪我の功名というような感じがする。しかし、これ以外にも過去5年間でオリスが躍進した重要なキイワードが存在する。
「ハハハッ、それはキャリバー400ですよ。これを発表したのは2020年、なんとパンデミックが始まった年です。大変なことになるんじゃないかなと思ったのですが、それは先にもお話ししたようにオリスには良い結果となりました。
(キャリバー400に対して)市場は『ちょっと違うものが出てきたな』という印象だったのか、反応はとても良かったですね。(Cal.110系を除く)それまで38時間だった一般的なオリス時計のパワーリザーブが120時間(5日間)にアップされ、保証期間も10年間に延長されました。あくまで時計愛好家の立場に立って考えられたスペックですから、彼らに対しては良いアピールとなりました。また搭載モデル(「アクイスデイト キャリバー400」のこと)も魅力的でした。10年間保証はキャリバー400が初めてのことですが、我々の自信の表れでもあります」
近年のオリス自社ムーブメント・リスト
閑話休題(少し長いです)。ここでオリスの簡単な自社ムーブメント史を記述する。なんらかのご参考になれば幸いです。
まず、オリスは1904年の創業以来、1981年までに279個のインハウス(自社)・ムーブメントを開発した、と公式HPに記されている。その中でもほんの3機を上げてみた。最後の1991年のムーブメントは、資料によれば「複雑系インハウス・モジュールの製造を継続」とあるのでモジュールのみ自社製と思われる。
●1917年:Cal.40(手巻き式。1938年発表の最初のパイロット用腕時計「オリス ビッグクラウン ポインターデイト」に採用。ピンレバー脱進器装備。ある意味で当キャリバーはオリス史の“核”と言ってよいだろう)。
●1952年:Cal.601(自社初の自動巻きムーブメント。36時間パワーリザーブ・インジケーターをダイアルに装備)。
●1968年:Cal.652(初の自社開発クロノメーター・ムーブメント)。
●1991年:Cal.571あるいはCal.581(デイデイト、ムーンフェイズ、セコンドタイムインジケーター装備)。
その後、オリスは35年間休止していた自社開発ムーブメント・プログラムを再開させ、創立110周年に当たる2014年に第1号機の手巻き式Cal.110を発表。とりあえず110番系キャリバーの発表がひと区切りとなる2019年まで、その発展・改良型ムーブメントも含めて計6個発表する。全ムーブメント共通のスペックは①手巻き式 ②10日間のパワーリザーブ ③ノンリニアパワーリザーブインジケーター。なおノンリニアパワーリザーブ・インジケーターは、エネルギー残存量が少なくなるにつれて扇型目盛りの幅が広くなり、それにつれて表示計の針の進行が速くなるという特許技術の機構である(エネルギー残存量が10日から残り1日にかけて1日単位の幅が段々に広くなっていくデザイン)。10日間の動力は均等に放出されるが、これはオリスが当ムーブメント専用に開発した独自のパーツ「ウォームギア」によるもの。ウォームギアはパワーリザーブ・インジケーターの背後に設置されている。シングルバレルでゼンマイの長さは1.8m。
●2014年「Cal.110」(創立110周年記念)
[スペック]手巻き、直径34.00mm(15リー二ュ)、40石、21,600振動/時(3Hz)、パーツ数177個(40石を含む)、シングルバレル、パワーリザーブ240時間(10日間)。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。9時位置にスモールセコンド。香箱の大きさはムーブメントの約1/3のスペースを占める。搭載モデル「アートリエ 110 リミテッドエディション」。
●2015年:Cal.111 (220個限定品)
[スペック]Cal.110の改良・発展型。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。9時位置にスモールセコンドとデイト表示。搭載モデル「アートリエ キャリバー 111」。
●2016年「Cal.112」
[スペック]Cal.110の改良・発展型。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。7-8時位置にスモールセコンド。9時位置にデイト表示。12時位置にサブダイアル時分針とデイ&ナイト表示。第二時間帯表示機構。搭載モデル「アートリエ キャリバー 112」。
●2017年「Cal.113」
[スペック]Cal.112の改良・発展型(?)。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。9時位置にスモールセコンドとデイト表示。12時のロゴ下にデイ表示。ダイアル外周部にポインター式52週表示&月表示。つまり曜日・日付・週・月表示機能を搭載するプチコンプリケーション。搭載モデル「アートリエ キャリバー 113」。
●2018年「Cal.114」
[スペック]Cal.113の改良・発展型(?)。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。9時位置にスモールセコンドとデイト表示。ダイアル外周部に30分毎の時刻調整が可能な24時式セカンドタイムゾーン表示。GMT。研究開発期間に6年を要した。搭載モデル「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー 114」。
●2019年「Cal.115」
[スペック]Cal.110改良型のスケルトナイズド・ムーブメント。
[仕様]センター時分針。3時位置にノンリニアパワーリザーブ表示。7-8時位置にスモールセコンド。スケルトン仕様。搭載モデル「ビッグクラウン プロパイロットⅩ キャリバー 115」。
そしてCal.115発表の翌2020年、ついにCal.400が登場する。ツインバレルによる120時間(5日間)パワーリザーブや、推奨オーバーホール期間10年間、MyOris登録者は10年間保証というのが大きな特徴だ。以下に2020年から2023年までの自社ムーブメントを記す(なおCal.400、401、403は自動巻き、Cal.473は手巻き式ムーブメント。Cal.402は欠番と思われる)。
●2020年「Cal.400」
[スペック]自動巻き、直径30.00mm(13 1/4リー二ュ)、24石、28,800振動/時(4Hz)、ツインバレル、パワーリザーブ120時間(5日間)。
[仕様]センター時分秒針。6時位置にデイト表示。30の非金属パーツを使用した耐磁構造。2250ガウスの磁気に晒すテストで日差10秒以内の精度を確保。ISO764基準を超える耐磁性。推奨オーバーホール期間は10年間、MyOris登録者は10年間保証。搭載モデル「オリス アクイスデイト キャリバー400」「ヘルシュタインエディション」。
●2021年:Cal.401
[スペック]Cal.400の改良・発展型
[仕様]センター時分針。6時位置にスモールセコンド。ノンデイト。以下はCal.400参照。搭載モデル「オリス カール・ブラシア キャリバー401 リミテッドエディション」。
●2022年:Cal.403
[スペック]Cal.400の改良・発展型。
[仕様]センター時分針。6時位置にスモールセコンド。センターにポインターデイト針装備。以下はCal.400参照。搭載モデル「ビッグクラウン ポインターデイト キャリバー403」。
●2023年:Cal.473
[スペック]手巻き、直径30.00mm(13 1/4リー二ュ)、28,800振動/時(4XHz)、シングルバレル、パワーリザーブ120時間(5日間)。
[仕様]センター時分針。6時位置にスモールセコンド。センターにポインターデイト針。ムーブメント側にパワーリザーブ・インジケーター装備。2014年発表の自社開発ムーブメント・プログラム第1号機から数えて10機目となるムーブメント。手巻き式のCal.473は、1917年に誕生し1938年発表のオリス初のパイロット腕時計「オリス ビッグクラウン ポインターデイト」に搭載されたCal.40への賛辞的な存在と思われる。前年の2022年に同じ仕様のCal.403が“自動巻き”で発表されているので、わざわざ“手巻き”を発表する特別な理由がオリスにはあったのだ。搭載モデル「ビッグクラウン キャリバー473」)
なお、当インタビューが行われた2024年には新型ムーブメントは発表されていない。
一方、汎用ムーブメントについてはETA 2671ベースのCal.ORIS 560等の500番系、ほかETA 7750ベースのCal.ORIS 674やETA 2836-2ベースのCal.ORIS 690といった600番系、さらにセリタ社のCal.SW200ベースのCal.ORIS 733や、Cal.SW200-1ベースのCal.ORIS 733-1、またCal.SW220-1ベースのCal.735等の700番系が存在するが、特に700番系ムーブメントは手元の資料だけでも10個以上存在する。あとはラ・ジュウ・ペレ社Cal.5800ベースのCal.ORIS 910が見られる。特に前ページで紹介した2024年9月発表の「ダイバーズ デイト」搭載のCal.733-1(セリタ社のCal.SW200-1ベース)は、同年6月発表の「ダイバーズ65 デイト」と基本は同じムーブメント番号ながら、防水性能とパワーリザーブがアップされたことは既述した。
まったく恐ろしいほどのスピードと堅実さで自社キャリバーを発表し続けているオリスだが、今後の具体的なロードマップをスチューダー氏に尋ねたところ、
「これからも自社ムーブメントは発表する予定ですし、キャリバー110シリーズも続けますよ」と完全にはぐらかされた!
(オリス社のムーブメントに関する資料:『The Collection 2018 / 2019』(オリス社刊)、https://watchbase.com/ 内オリスページ)
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
写真:高橋敬大 / Photos:Keita Takahashi
協力:オリスジャパン / Thanks to:ORIS JAPAN
INFORMATION
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