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GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2023番外編!“GPHG”特別企画 最終審査員、飛田直哉氏による“実録! ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2023” 01

長年の知己である飛田直哉氏、GPHGの最終審査員になる!

“金の針”賞を授章する、MB&Fの創設者マキシミリアン・ブッサー氏

2023年受賞モデル(ブランド)の代表者達がずらりと並ぶ恒例のステージショット。当年は“金の針”賞と18の部門賞(“小さな針”賞を含む)の計19賞という構成。2001年の初回以来、初めてメンズウォッチ部門に該当モデル無しという予想外のニュースには驚かされた。GPHG初回の2001年から直近の2023年まで、全23年間の公式記録を元に作成した私家版の受賞ブランド・ランキングを見ると、第1位は16回受賞のオーデマ ピゲ、第2位は14回受賞のピアジェ、第3位は12回受賞のヴァン クリーフ&アーペル、第4位は11回受賞のヴァシュロン・コンスタンタン、第5位は各々10回受賞のヴティライネンとブルガリになる。以下タグ・ホイヤーやチューダー等が続くが、リシュモンやLVMH等の巨大グループに受賞モデルが偏るのは仕方のないことか。なお、スウォッチ グループはGPHG自体にあまり積極的でないせいか、受賞回数はどのブランドも少ない(ある年を境にして受賞歴がいきなり下がっている)。おそらくノミネート段階で辞退している可能性も考えられる。つまりGPHGを自社マーケティング・ツールとして活用するか否かという各ブランドの判断が、受賞履歴に如実に反映されており、私がGPHGを「時計界のアカデミー賞」と呼ぶことに少々ためらいを感じるのは、このような受賞ブランドの偏在にある(25年間にわたってブランドの偏在が発生している現状は、果たしてGPHGをスイス時計界1年の総括と呼べるのか否か、という点でどうにも落ち着かない気分にさせる)。
写真提供:NH WATCH

Chapter 01. GPHGで非常に重要な役割を担うアカデミー会員


「時計界のアカデミー賞」。


 この明快なキャッチコピーにより、世界に数多く存在する時計愛好家や事業者に認知されるに至った「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ=GPHG:GRAND PRIX D’HORLOGERIE DE GENÈVE(以下、GPHGと表記) 」。2001年の初回からあっという間にほぼ四半世紀が経ってしまったことに少々驚くが、途中で主催者の交代があったものの、GPHGは年を追うごとに時計界における知名度と重要性が増している。2001年の第1回での賞数は“金の針”賞+部門賞6個の計7賞という小規模だったが、2023年には“金の針”賞+部門賞18個の計19賞と約3倍にまで膨れ上がった。そして2024年のノミネートも同年8月27日(JST=日本標準時間)に発表。実質的にGPHG賞の審査を担うアカデミーの設立は2020年、初回からちょうど20年目の年である(註:母体のGPHG=Grand Prix d'Horlogerie de Genève財団は2001年の初回時に設立され、2011年には公益団体として認められた財団)。わずか5年間にGPHGアカデミーの会員数は増加する一方で、2024年には978人となり早晩1000人を超えることは必至だろう。

 さて、グレッシブでも2017年度以降の受賞結果をリポートしてきたが、毎年の結果発表と当該年の傾向分析のみで、実際のリポートでない点が面白くない。他の多くのメディアは11月の受賞発表直後に結果リポートを即日か翌日に掲載するが、スイス本部が発信するプレスリリースのほぼ引き写しが多く臨場感がない。興味のある方ならば直接GPHGのHPを開き、自動翻訳機能を使えば難なく結果を知ることができる(GPHGの公式HPのURL:https://www.gphg.org/en)。


飛田直哉(ひだ・なおや)

飛田直哉(ひだ・なおや)
NH WATCH株式会社 代表取締役。1963年、京都府京都市生まれ。1990年、日本デスコ入社。1994年に日本シイベルへグナー(現DKSHジャパン)に入社し、ブレゲやヴァシュロン・コンスタンタン等のセールスやマーケティングを担当。2004年にはモントル・ジュルヌ・ジャポンの初期メンバーの1人となる。日本におけるF.P.ジュルヌの初期活動の屋台骨となり、ブランド知名度の向上に大いに貢献する。2009年よりリシュモン ジャパンでラルフ ローレン ウォッチ アンド ジュエリーを担当。長年の時計ビジネスで培った深い知識と幅広い人脈を財産とし、2018年3月、かねてより抱いていた自社ブランド=NH WATCH株式会社を創立。同年に初号機「NH TYPE 1A」(試作品のみで未販売)、翌2019年には「NH TYPE 1B」(7本)と順調にコレクションを増やして行き、2023年は7コレクションまで揃う。すでにお気付きのとおり、モデル名はブレゲの航空クロノグラフ「アエロナバル」の型式……、というより軍の制式採用品の型式名称に倣っており、その志向・思考・嗜好が見事なまでに反映されている。いわゆる“わかる人に”向けた時計で、香港、ニューヨークでクラシックなメンズ・トラッドショップを運営する「THE ARMOURY(アーモリー)」のマーク・チョウ氏もNH WATCHの贔屓筋である。

2023年11月9日(木)の16時30分よりスタートしたGPHG2023の発表・授賞式。ステージ中央の壇上に立つのが飛田さん(左側)

2023年11月9日(木)の16時30分よりスタートしたGPHG2023の発表・授賞式。ステージ中央の壇上に立つのが飛田さん(左側)で、おそらくこれから「Oscar goes to……」と声を上げて受賞モデルを発表するのだろう。この辺りの段取りは米アカデミー賞と同じ。30名の最終審査員はステージ上での発表とオスカー像の授与という役目も担っている。飛田さんの右側に立つのはデンマークから選ばれた最終審査員で、作家・コレクター・写真家の肩書きを持つクリスティアン・ハーゲン(Kristian Haagen)氏。彼らの担当はレディス・コンプリケーションウォッチ賞で、受賞はディオールの「ディオール グラン ソワール オートマタ エトワール ドゥ ムッシュ ディオール」、デュオールは初のオスカー受賞である。ちなみに2023年は“審査員特別賞”を除く18賞(“金の針”賞と“小さな針”賞含む)の中で初受賞ブランドが7つもあり、少々珍しい出来事なので以下に紹介する。今後常連ブランドになる可能性もあるだろう。
●レディス・コンプリケーションウォッチ賞 「ディオール グラン ソワール オートマタ エトワール ドゥ ムッシュ ディオール」
●小さな針賞 クリストファー・ウォード「C1 Bel Canto」
●チャレンジウォッチ賞 レイモンド・ウェイル「ミレジム オートマティック スモールセコンド」
●メカニカル・クロック賞 レペ「タイムファスト II クロームメッキ限定モデル」
●オロロジカル・レヴェレイション賞 サイモン・ブレット「クロノメーター・アルティザン」
●オーダシティ賞 メゾン アルセ「ペルセ アジュール」
●イノベーション賞 オートランス「スフィア シリーズ1」


「これではメディアの存在意味が無い」と思っていたところ、長年の知己である飛田直哉氏が2023年度の最終審査員(jury)を担当したことを本人から聞いた。さらにジュネーブの最終審査会に臨場すると共に受賞式のプレゼンターも務めたことを知ると、他のメディアとは異なる記事ができるのではないかと思い、彼に取材の申し込みを行った。飛田氏が快く引き受けてくれたので、果たしてどのようなものか、その実情を2023年度のGPHGに最終審査員として参加した彼の言葉を元に今回の記事を構成する。当記事は2023年度の結果分析というより、GPHGの最終審査についてこれまで日本ではあまり伝えられなかった内容が浮かび上がることを試みた。いわばGPHG特集の番外編であり、何らかの参考になれば幸いです(なお以降、飛田氏を“飛田さん”と呼称します。またすでに試みている方もおられると思いますが、上記したGPHGのHPをチェックすれば当該年のノミネート時計から結果、第1回の2001年以降のアーカイブ、アカデミー規約等のすべての情報が閲覧可能で、ご自身のPCの自動翻訳機能を使用すれば簡単に読めます。なお老婆心ながら、誤訳点検用に英語ページと翻訳ページを画面上に並列表示されると、内容を把握する確度が上がります)。



 前置きが長くなって申し訳ないが、まずはご存じのない方のために飛田直哉氏のプロフィールについて以下に簡単にまとめる。

 彼は現在、日本の独立時計工房「NH WATCH株式会社」の創立者・代表取締役である。私が飛田さんと知り合いになったのは、おそらく1995年のバーゼルフェア(当時の呼称)で、ちょうど彼が日本シイベルヘグナー(現DKSHジャパン)に在籍していた頃になる。当時、彼はブレゲやヴァシュロン・コンスタンタン等を担当していたが、時計業界の前には知る人ぞ知るガイナックスの関連会社に在籍していたことから、そのマニアックな志向・思考・嗜好の深度が窺い知れる。私からすれば恐るべき存在である。同程度の“恐怖”を感じるのは当グレッシブ編集長の名畑政治氏と、日本版クロノス編集長の広田雅将氏、そして松山 猛氏である(飛田さんも含めていずれの諸氏も時計だけに留まらず、守備範囲が異様と思えるほど広く、かつ尋常でないぐらい深いことも共通する。時計以外の企画も組みたいところだが中々実現していない)。その後、モントル・ジュルヌ・ジャポンの初期メンバーの1人となり、さらにはリシュモン グループでラルフ・ローレン ウォッチに関与した。なお現在、日本ではフランソワ・ポール・ジュルヌの名を知らぬ時計愛好家はいないが、その知名度を上げたのはひとえに飛田さんの貢献によるものと、私は確信する。

 その飛田さんが独自時計ブランド、NH WATCH株式会社を創設したのが2018年3月。時計業界での長い経験と国境を越えた幅広い人脈、正統派古典時計への憧憬と博識家である彼の趣味が全面に投影された当ブランドは、確実に世界で人気が高まっている。忙しい日々を送っている彼に2022年のある春の日、GPHG本部から1本のメイルが届く。最終審査員のことではない、まずGPHGの構成メンバーであるアカデミーへの入会の打診だ。






取材協力:飛田直哉(NH WATCH) / Special thanks to:Naoya Hida(NH WATCH)
©FONDATION DU GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE

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