GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2023番外編!“GPHG”特別企画 最終審査員、飛田直哉氏による“実録! ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2023” 06
飛田さんに一問一答……「GPHGの意義と日本の存在感」、
そして最新のNH WATCHコレクション
Chapter 08. 日本はもっと存在感を示すべき
飛田さんへのインタビューの最後は一問一答形式でGPHGの意義と日本のプレゼンスについて尋ねた。
――GPHGはスイスで開催される時計の式典としては良いプラットフォームになりましたね。――
[飛田氏]そうですね、みなさんに紹介する場合でも「時計界のアカデミー賞です」と分かりやすい説明ができますから、しっくりくるでしょう。ただし、受賞ブランドに偏りがあるとか問題はありますけどね。
――そうそう、私(田中)も2017年頃からGPHGの記事を作成していますが、3年ぐらい前に第1回の2001年からの部門毎や時計ブランド毎の受賞履歴をリスト化したことがあり、現在も毎年データを更新しています。それらを見ると、ブランドごとの偏りがかなりあるのに気付きます。
ここでジュネーブという街について考えてみたいのですが、新型コロナのパンデミック以前よりバーゼルの問題が顕在化しておりました。その結果、時計発表会の比重が量的にも質的にもジュネーブにかかったところにSIHHがウォッチ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)へと変容し、それを発展的解消をしたのが2022年。さらにこの街にジュネーブ・ウォッチ・デイズ(GWD)やら他のジュエリー系メゾンの独自発表会が加わった結果、19世紀の再来であるかのように“時計の都、ジュネーブ”というアピールが非常に強くなってきました。この時計界の大きな枠組みの変化を考えると、ジュネーブのGPHGの重要性とポジションは完全に認知されていますね。当日の混雑ぶりはいかがでしたか。――
[飛田氏]ガラ・ディナー(パーティ)の様子から判断すると、授賞式後にインタビューとかがありますが、とにかく「早く2階の(ガラ・ディナーの)会場へ行け!」というのが主催者側の意向です。しかしその途中、ホテルのエントランスで出席者たちが立ち飲みしているんです。シャンパンのローラン・ペリエがスポンサーなので、みなさん楽しく飲んでます。ガラ・ディナーの招待客はごく一部ですが、GPHGの授賞式には(招待客であるかは別にして)スイス中の主だった時計関係者が来るので、授賞式後はみなさんエントランスでずっと飲んで談笑しています。その後は食事にでも行くのでしょう。ものすごい人数ですよ。昔バーゼル時代に、その日のプログラム終了後にはメインのホール1.0の前でみんなビールを飲んでバンドが出て演奏して、ずっと喋っていたでしょう。あんな感じですよ。
ジュネーブやラ・ショー・ド・フォンのジュラ山脈界隈、おそらくシャフハウゼンからも時計関係者がどっと来ています。なにしろ授賞式の後半部は立ち見客が出るほどの大人数が授賞式に押し寄せて来るのです。先ほど述べたように、もっと日本のメディア(や時計関係者)は当会に参加して日本のプレゼンスを高めた方が良いですよ。
Conclusion 総括
新型コロナのパンデミックによる出入国制限や円安等による悪影響もあるが、飛田さんが言われているようにスイスの現場における日本のプレゼンスが弱いというのは問題である。何にせよ日本は世界におけるスイス時計市場の約6.8%(註:2023年度のスイス時計協会発表の統計データによる)を占めている。日本の時計関係者やメディアは、W&WGやGWDにもっと積極的に参加すべきだと思う。特にスイスの時計会社や関係者と直に接触できるGWDは、もっともっと注目されるべき存在だ。
振り返れば20世紀の終わり頃に始まった時計界の大革命は、21世紀に入り四半世紀経った現在もなお進行中である。最初は大手グループの結成(あるいはグループ内ブランドのさらなる強化)による資本投下や、サプライヤーの垂直統合もしくは密接な協業関係から始まり、併せて自社ムーブメントや新素材の開発、また続々と誕生するムーブメント開発会社の活動など、現在も目が離せない状況が続いている。さらに台頭著しい新興時計会社の存在は、“時計成熟期”の現況を表していると言える。毎年のGPHGノミネートリストを見ると、新たな時計会社・独立工房が続々と誕生しているのが確認できる。
また2010年頃からの新しい傾向として、世界に点在する時計愛好家クラブや個人発信力の強いユーザーからのプレゼンスが急激に高まってきている点が挙げられる。彼らの存在は、今後の時計潮流には絶対に欠かせない要素のひとつだ。このような中で台頭してきた、時計会社公認のカスタムウォッチは要注目の現象だ。何を今更、と言われる方がいらっしゃるはずだ。しかし、かつては個人の趣味として“本家”とは一線を引いていたカスタムウォッチを、本家である時計会社が取り込み始めた現象は注目せざるを得ない。一方、時計会社側にも第三世代(あるいは第四世代)の30~40代の新指導者達による新しい試みが成功を収め始め(例:ショパールの「アルパイン イーグル」やレイモンド・ウェイルの「ミレジム」)、またハイジュエラーによるオートマタ等の超・高級時計の新定義とも言える創作活動など、相当なうねりが現在の時計界に渦巻いている。極東の我々日本も大人しく佇んでいる場合ではない。近い将来を見据えた展望を持って、日本はスイス時計に積極的なアプローチと存在感を示す時期だと思う。Let's Go to Swiss!
2024年NH WATCH主要コレクション
ひょっとして初めてNH WATCHをご覧になられる方のために、簡単なモデル分類法の説明を。最初のナンバーは開発順番を示すと同時に当該モデルの基本スタイルを表示。その次のアルファベットならびにハイフン(-)後の番号は仕様のバリエーションを意味する。現行モデルで言えば「TYPE 1」グループは、創業年の2018年にNH WATCHでいちばん最初に製造された9時位置スモールセコンドの「1型」を意味する(「NH TYPE 1A」は1点製造品かつ試作品のため未販売)。2024年時点では「1D」(「D」=「1型」の第四世代。2019年発売)、「1D-2」(「1型」の第四世代の別仕様タイプ「2」。9時位置スモールセコンドの18KYGケース。2024年発売)、「1D-3」(加納圭介氏による手彫り装飾を施したバリエーションモデル。2024年発売)がラインナップされている(年間生産本数が限られているので興味のある方はお早めに)。典型的な工業製品の分類法だが、例えば軍用航空機の型式番号(モデルナンバー)をイメージして頂ければよろしいかと。英国スーパーマリン社開発のスピットファイア(1930~1940年代の航空機。バトル・オブ・ブリテンで大活躍)やブレゲのアエロナバル(腕時計)など。なお搭載ムーブメントはすべて手巻きを採用しケースの薄型化を実現、よりドレッシーなスタイルを目指している。
Appendix.「第24回GPHG2024に関するURL」
最後に本年の2024年11月13日(木)に開催される、第24回GPHG発表・授与式に関係するURLを以下に記します。ご興味のある方はご覧ください。
●2024年度GPHG審査員(jury)リスト:https://www.gphg.org/en/gphg-2024/jury
●2024年GPHGノミネートモデル・リスト:https://www.gphg.org/en/gphg-2024/nominated-timepieces
●2024年GPHGワールドツアー情報:https://www.gphg.org/en/gphg-2024/2024-schedule
●2024年GPHGアカデミーに関する規約等:https://www.gphg.org/en/academy/presentation
取材協力:飛田直哉(NH WATCH) / Special thanks to:Naoya Hida(NH WATCH)
©FONDATION DU GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE
INFORMATION
エヌエイチ ウォッチ(NH WATCH)についてのお問合せは・・・
NH WATCH株式会社
〒104-0045 東京都中央区築地3-2-10
エヌエイチ ウォッチ ブランドページを見る