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GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2023番外編!“GPHG”特別企画 最終審査員、飛田直哉氏による“実録! ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2023” 05

「Oscar goes to……」のプレゼンターを務める

GPHGでは“金の針”賞と“小さな針”賞は総合得点等から導かれる方式ではなく、これらも最終審査員の採点によって決定される

GPHGでは“金の針”賞と“小さな針”賞は総合得点等から導かれる方式ではなく、これらも最終審査員の採点によって決定される。第23回GPHGの“金の針”賞は飛田さんの言葉を借りれば“圧倒的だった”「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(RD#4)」。彼は「個人的には厚さなどが気になりましたが」、「実際に動かしてみたら“カチカチカチ”っと非常にスムースに作動して『これは凄い!』と思いましたね」と証言する。相当いじりまくったらしい。2021年「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラシン」で“アイコニックウォッチ”賞を受賞して以来、2年ぶりの受賞となったオーデマ ピゲ。“金の針”賞は2019年の「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシン」以来2度目となり、これで受賞実績は全23回開催されたGPHGでは実に16回にも及び、最多受賞者(社)の栄誉に輝いた。2015年発表の「RD#1」より8年後、今回“金の針”賞を受賞した「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(RD#4)」は、過去3世代のR&Dイノベーションに基づいて構築され23の複雑機構を含む40の機能が組み込まれている。“ユニヴェルセル”は19世紀に完成した自社アーカイブの懐中時計の名称に因むもの(“universel”は仏語で“世界、普遍”の意)。すでに本特集のP.01に掲載されている当該モデルのキャプションで説明済みだが、以下に機能等の簡単なスペックを記す。18Kピンクゴールドケース、ケース径42.00×厚さ15.55mm。自動巻き、Cal.1000、21,600振動/時、パワーリザーブ60時間。主な機能:グランソヌリ、スーパーソヌリ、ミニッツリピーター、フライングトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンド・フライバック・クロノグラフなど。

※オーデマ ピゲ公式HP:https://www.audemarspiguet.com


Chapter 06. ハリウッド張りの授賞式、そしてガラ・ディナー


 2023年11月9日(木)、GPHGの発表・受賞式は、恒例となったフェアモント・グランド・ホテル・ジュネーブの地下にある“テアトル・デュ・レマン” (Théâtre du Léman)で行われた。ここで最終審査員たちはプレゼンターの役目を担う。


「発表・授賞式における審査員の仕事としては、壇上での発表と受賞ブランド代表者へのトロフィーの授与があります。米国のアカデミー賞で『Oscar goes to……』ってやるじゃないですか、あれをやらなければならないのです。私の場合はデンマークの男性とふたりで登壇して、ちょっとコメントをした後に私がトロフィーを持ち、彼が『Oscar goes to……』ってやりました。我々の時の受賞者はディオール(註:レディス・コンプリケーションウォッチ賞の「ディオール グラン ソワール オートマタ エトワール ドゥ ムッシュ ディオール」)でした。ディオールは今回初受賞ですか?

 オスカーの授与に登壇したのは女性でしたけど無茶苦茶緊張したでしょうね、ジャン・アルノーの前ではね(註:ジャン・アルノー氏は、デュオールを傘下に収めるLVMHグループ取締役会長ベルナール・アルノー氏の四男で末っ子の人物)。

 授賞式は16時30分から20時までだったから3時間30分ですが、実際は2時間ぐらいでしょう。すごく綺麗な会場で、かつてのオペラ座とは大違いです。オペラ座は本当に古いので」

最終審査員のクローズアップ・ショット

P.03でも紹介した最終審査員のクローズアップ・ショット。写真中央よりやや左は飛田直哉さん。その前は散々ご紹介したニック・フォークス審査委員長。その右側の男性がマーク・チョウ氏。チョウ氏は香港出身の人物だが、トラディショナルな男性スタイルの世界を提案する「THE ARMOURY(アーモリー)」の共同創立者・経営者のひとりで、香港とニューヨークにブティックを展開している。日本にも何度も訪れていて飛田さんとは旧知の間柄。今回お互いが最終審査員に選定されていることを、ジュネーブで会うまで知らなかったそうだ。ところで時計から話題が外れるが、チョウ氏は当然ながらスタイリッシュな人物である。そこで彼が惚れ込んだスタイリングが、飛田さんも顧客のひとりである東京・渋谷の「テーラー・ケイド」。その縁でテーラー・ケイドはこの10年ほど春秋の2回、ニューヨークのアーモリーで受注会を行なっている。当地ではもの凄いアッパークラスの顧客もいるらしいが、要するにある種のスタイルを持っている男性は、スーツに限らず車や時計やアンティークなどの共通項にこだわりを持っているということだ。であるので、時計にしか興味を持てない層だけではなく、チョウ氏のような人物を最終審査会に選ぶのは良い感覚だと思う(そもそもニック・フォークス氏もそのような人物だ。ついでに書くと、ウェイ・コー氏も飛田さんも時計以外の分野においても相当なクセ者である)。

クリストファー・ウォードの「C1 ベル カント(C1 Bel Canto)」

本特集のトップページで大きく紹介したクリストファー・ウォードの「C1 ベル カント(C1 Bel Canto)」。“小さな針”賞受賞である。2004年創立の英国ブランドだが、2014年にはスイスでの製造パートナーの一社であるビエンヌのSH=シナジー・オルロジェリー(Synergies Horlogeres)社を合併。クリストファー・ウォードもSH社もモジュール機構の重要性を意識しており、「C1 ベル カント」の要はテクニカルディレクターのフランク・セルツァー(Frank Stelzer)氏にちなんで「FS01」と名付けられたチャイムモジュールにある、と当社資料には書かれている。もっともFS01は、当機以前にSH社が開発した機構を前提としているらしく、話が複雑なのでここでは割愛する(興味のある方は『Hodinkee Japan』の2023年1月19日公開記事、Mark Kauzlarich氏の記事をご覧ください。https://www.hodinkee.jp/articles/in-depth-c1-bel-canto)。トップページでも書いたとおり、時計界を震撼させる超優秀コストパフォーマンスのチャイムウォッチ。1990年代には当時の日本円で100万円を切るトゥールビヨンがクロノスイスに存在したが、あの時以上のニュースと思われる。ちなみに“ベル カント(Bel Canto)”とは、音楽用語の“ベル カント唱法”のことで伊語で“美しい歌”の意味。18世紀から19世紀においてイタリアで確立された歌唱法のひとつで、低音から高音まで喉に無理なく、気持ちよくのびやかに歌える唱法のこと。

※クリストファー・ウォード公式HP:https://www.christopherward.com

 授賞式後はガラ・ディナー(パーティ)が控える。これぞ欧州サロン文化の一端を飛田さんは堪能する。


「発表・授賞式を地下の“テアトル・デュ・マン”で行なった後は、同ホテル2階のレセプションをぶち抜いてガラ・ディナーが開かれます。ここでは円卓を各参加ブランドが『買う』のです。そこにブランド責任者やマーケティング責任者が着席し、懇意にしているプレス等を招待します。2023年はセイコーも参加しているので、円卓には内藤さん(昭男氏。代表取締役社長)と柴崎さん(宗久氏。取締役・執行役員)だったかな? が着席されています。伝統的に読売新聞のパリ支局の人は招待されているようで、赴任したばかりの人がいらっしゃっていました。その御三方と私だけが日本人で、後は全部海外の人です。私は(日本人が少ないことに)ショックを受けて『この場には日本人がいなくてはイカん!』と言いました。

 このガラ・ディナーには審査員でなくても、有名どころの評論家やプレスはみんな来ています。そうやって社交をして顔を売っているのですね。これはメーカーとメディアのプレゼンスの場所として、非常に重要だと思いました。香山知子さん、松山 猛さん、山田吾郎さんたちは行かれたことがあると思います。審査員であろうがなかろうが、みんな来ていることにびっくりしました。

 ディナーと言いながらふた皿目ぐらいからは、あちこち立ってぐちゃぐちゃの状態(これはいつものことで、ヨーロッパ式無礼講)。私は午前0時ごろに引き上げましたが、いつものように夜中まで続いたのでしょう。幸いエレベーターに乗れば自室に戻れますから、今回はこれがいちばん良かったかな」


Chapter 07. 様々な人と出会い、メディアの取材も受けて大忙し


「いろいろな人に出会えたことが良かったですね。特に感心したのが“小さな針”賞を受賞した英国のブランド、『クリストファー・ウォード(Christopher Ward London)』。彼らのモデルは1時間ごとに音鳴りがする、一種のソヌリです。セリタのSW-200をベースに、自社開発の1時間に1回鳴る機構を重ねて日本円で50万円以下(2023年11月の為替レートで計算)で販売しています。本社とデザインは英国ですが製造はスイス。この英国とスイス双方の人物と話をしました。クリストファー・ウォードさんはもう会社にはいません。まぁ、時計ブランドあるあるですね。会場には代表者、製造責任者など色々な方がいらっしゃいました。

 審査員は各テーブルに割り振られ、私はこのクリストファー・ウォードに指定されました。最初の30分くらいはこのテーブルにいまして、スイスでの時計製造責任者と話ました。私より十歳くらい年上だったかな。当然ながらサプライヤー事情にものすごく詳しくて、とても参考になりましたね」

1976年に創業し、リーズナブルなラグジュアリー・ブランドとして手堅い評価を得てきたレイモンド・ウェイル

1976年に創業し、リーズナブルなラグジュアリー・ブランドとして手堅い評価を得てきたレイモンド・ウェイル。正直申し上げて、GPHGからは距離を置いた立ち位置かと私は思っていたが、2014年に三代目CEOに就任したエリー・ベルンハイム氏が見事なブレイクスルー・モデルを創案した。それがチャレンジウォッチ賞受賞の「ミレジム オートマティック スモールセコンド」。39.5mmという絶妙なケースサイズにスモールセコンド等、全体に漂うヴィンテージ感は、昨今注目を集める“クワイエット・ラグジュアリー”の代表例だ。その一方で、当モデルは単なるアンティークの再現ではなく、ダイアルのセンタークロス等に現代のヴィンテージを創るという意気を感じる。しかも価格は極めてリーズナブル。これは時計愛好家の目に止まらぬはずがない。最近はファミリー・ビジネスの時計会社の三代目(もしくは四代目)が、極めて感度の高いモデルを生み出しているがレイモンド・ウェイルもその好例。“ミレジム(millesime)”とは仏語で“ヴィンテージ”の意味で、ワインの製造年にも使用される用語でもある。レイモンド・ウェイルは1976年以来熟成してきたブランドの香りが、三代目にして見事にヴィンテージとして完成した。ステンレススティール・ケース、ケース径39.50×厚さ10.25mm。自動巻き、パワーリザーブ38時間。50m防水。日本の輸入代理店はGMインターナショナル。

※GMインターナショナルの公式HP:https://www.gm-international.co.jp/brand/


 あちこちから多くの人の話し声や笑い声が錯綜して聞こえ、とにかく話しまくるという情景が見えるようだ。


「プレスインタビューなどがあったので、結局帰国は翌日ではなく一泊延長して翌々日の11日(土)になりました。プレスインタビューとは、GPHG会場に取材に来ているプレスなどから私がインタビューを受けるのです。たとえば、中国本土で発行しているライフスタイルマガジンの記者のインタビューを受けました。GPHG自体を取材しているメディアです。他は『WATCH TV』というYoutubeメディアがありますが、そこの『PRIME TV』という月に1回の番組から取材を申し込まれたので、ジュネーブ市外のスタジオに行ってインタビューを受けてきました。この番組はオススメですよ。私はもう5年以上は観ています」


 現地に行くには、やはり英会話力(と度胸)を養わねばならないことは違いない。頑張ろう。





取材協力:飛田直哉(NH WATCH) / Special thanks to:Naoya Hida(NH WATCH)
©FONDATION DU GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE

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