レクタンギュラー・フォルムの決定版
ロングアイランド
フランク ミュラーは優れた時計職人であると同時に、とびきりの時計愛好家でもある。
10年ぐらい前までなら、ジュネーブの蚤の市で「時計学校時代のフランクに、ずいぶんとワシが古いムーブメントや工具を世話してやったよ」なんて話す、時計骨董を扱うオヤジさんに会うことができた。
当時からフランクは古いエボーシュ(基礎ムーブメント)や古典的な時計工具を蒐集し、それをベースに作品を作ったり、古時計の修復に活用していたということだ。
そんなフランク ミュラーの古典時計への愛と憧憬が結実した、もうひとつの傑作が2000年に発表された「ロングアイランド」である。
このフォルムも、トノウと同じく1910~20年代に腕時計ならではのデザインとして誕生したレクタンギュラー(長方形)がベースになっている。
フランクはこのフォルムにカーベックスの思想を導入し、大きく湾曲し、腕へのフィット感を高めることで、「ロングアイランド」の斬新なフォルムを創出。
同時に最新の高精度な工作機械を駆使することで、防水性や防塵性を高めることに成功し、日常でも安心して使える確かな機能性を確保した。
さらにシンプルな三針ムーブメントだけでなく、積極的に複雑機構を搭載することで、従来のレクタンギュラー・モデルを越えたのである。
古典を越える前衛的フォルム
ヴァンガード
これまで数々の改革を成し遂げてきたフランク ミュラーは2014年、ひとつの新作をWPHHで発表。それが「ヴァンガード」である。
「ヴァンガード(VANGUARD)」とは、“前衛・革新”を意味し、近未来的で滑らかなフォルムには、フランク ミュラーの新たなスタンダード・コレクションとしての使命が託された。
最初に発表されたのが「ヴァンガード」の三針モデルとクロノグラフ。ケース側面にスリットが刻まれ、着色した部品を嵌め込むことでストラップと一体化し、流麗なフォルムが際だつよう設計されている。
ケースはステンレススティールの他、チタン、18KPGなどがあるが、チタン・ケースの場合、スリットにゴールドを嵌め込むことで、ラグジュアリー感が高められている。
ケースと一体化したストラップは、従来のバネ棒ではなく、ビスを用いた新たな装着方法を採用。これが流麗なフォルムの秘密でもある。
そのストラップも、厚みのあるラバーにクロコダイルを縫い付ける独特の製法を採用し、ケースと比肩するボリューム感と快適な装着感を実現した。
さらに文字盤も完全に新規設計。文字盤のベースからインデックスが浮き上がった三次元的な造形技術を駆使し、高い視認性を確保した。
そして2015年、フランク ミュラーはこのコレクションに新作を追加。それがトゥールビヨン搭載モデルの「ヴァンガード グラビティ」。 “グラビティ”(GRAVITY)とは“重力”。フランク ミュラーは、この新作で、地球の重力から解放されたかのような浮遊感を表現した。
>>>あらゆるベクトルでの改革が詰め込まれたフランク ミュラー25年の歩み
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:江藤義典 / Photos:Yoshinori Eto(25周年記念インタビューを除く)
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